先日『ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイ』を見ました。
かなり重い映画だとは思いますが、脚色があるにせよ事実ですもんねぇ・・・
簡単なあらすじ
ビリー・ホリデイが歌った黒人がリンチを受けた様子を描いた『奇妙な果実』。『奇妙な果実』を歌ったことで、麻薬取締局長官・アンスリンガーから目を付けられていた。ビリーは麻薬常習者であったが、アンスリンガーの目的はビリーに歌を止めさせること、さらにはビリーを破滅させることにあった。
『ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイ』
『ザ・ユナイテッド・ステイツvs.ビリー・ホリデイ』は各サブスクで現在見ることが出来ます。
この記事ではネタバレと名曲『奇妙な果実』に迫ってみました。
もし良かったらコメントいただけると嬉しいです。
ビリー・ホリデイの代表曲「奇妙な果実」
その歌詞の内容は
南部の木々は 奇妙な果実がなる
葉は血を流れ、根には血が滴る
黒い死体が 南風に揺れている
奇妙な果実が ポプラの木に垂れている
勇敢な南部の のどかな田園風景
飛び出た目玉に 歪んだ口
甘くみずみずしい クチナシの香り
そして急に鼻をつく 肉が焼けただれる臭い
この果実は カラスがつつき
雨水が溜まり 風が吹きつけ
太陽が腐らせ 木々が落とす
これは奇妙で苦い作物
リンチにあって虐殺され、木に吊りさげられた黒人の死体が腐敗し崩れていく様を、意見の主張もなく,怒りを表すでもなくただそこにあることとして描写した歌詞
1930年8月新聞で2人の黒人が吊るされて死んでいる場面の写真をみて、衝撃を受けたニューヨーク市の教師エイベル・ミーアポルが「ルイス・アレン」のペンネームよって作詞作曲された曲。
黒人の虐殺が日常茶飯事であったこの当時、それを告発する歌を黒人女性が唄うのはあまりにも危険。
実際、ビリーは警察からも追われていたが、表面上の罪は麻薬所持などの疑いだった。
だがビリーはこの歌をいつもステージの最後に歌った。
というより歌わなくてはならなかったのだ。自分自身の為に
後のインタビューで肺炎を患った父親が、病院に入れてもらえず たらい回しにされ亡くなったことがあり、それ故にこの曲を唄い続けなければならないと語っています。
劇中で「奇妙な果実」を唄うシーンはたくさんは無かったとは思います。
その中で印象に残っているのがツアーか何かの際、実際にリンチをされた光景を目の当たりにして唄うシーンに繋がっていくんですが、彼女はこの歌を本当に感情の高まった時にしか歌えないというセリフがありました。
彼女がこの曲を歌うにはステージの必ず最後で、照明を彼女のスポットライト以外すべてを落とし歌われました。
【簡単に歌うべきでない曲、でも歌わなければならない曲】
この映画の元になった本がイギリス人作家ヨハン・ハリの「麻薬と人間 100年の物語」
そのビリー・ホリデイの章で、5代にわたる合衆国大統領の元で、アメリカ合衆国連邦麻薬局を率いた
ハリー・J・アンスリンガーが、
「奇妙な果実」を歌わないようホリデイを脅し、彼女のドラッグの問題を利用して追い詰めたことを明かした。
この曲を歌い始めたのは1939年頃、公民権運動が本格化する以前の話。
多分この歌が世に出て広まりたくさんの種となり、それがのちの公民権運動に繋がっていったのでしょう。
そういう意味で
ビリー・ホリデイは『公民権運動の母』
と呼べるかもしれません。
2022年3月31日反リンチ法の成立
南部アラバマ州のNGOによると、1865年から1950年の間で、黒人に対するリンチは記録に残っているだけで約6500件。
しかしリンチを行った白人が有罪になった例はほとんどなく、
1900年以降でも実行犯が有罪とされたのは全体の1%。
そもそも罰する法律がないという悲惨さ。
リンチを犯罪として禁止する法案は、1900年に最初に連邦議会に提出されましたが、南部出身の議員の反対で、200回以上も廃案となってきました。
そしてやっと
2022年3月31日反リンチ法が成立。
(劇中のテロップでは反リンチ法は可決していないとありました)
その背景には、まだ記憶に新しい2020年のミネソタ州、黒人男性ジョージ・フロイドさんの事件。
それに抗議する「ブラック・ライブズ・マター」運動が間違いなくあったのでしょう。
リンチ実行者に最高30年の禁錮刑を科すこの法案は、下院は2月に可決、上院は3月に全会一致で可決しました。
とはいえまだ法案が通ったばかり、本当の意味で変わっていくのはまだ時間がかかると思います。
アメリカは大きくなり過ぎ甘く熟しすぎた果実かもしれません。
「奇妙な果実」に話が寄りすぎました。
ところでこのビリー・ホリデイ、昭和の歌姫と呼ばれた美空ひばりに重なるなと思ったのは自分だけでしょうか?
アメリカは大きな問題として、もう一つ銃規制の問題も残っています。
この問題も早く前進できればと思います。
ではまた
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