この記事では、『Otherside』を掘り下げます。
アルバム『Californication 』では『 Scar Tissue』に続き4曲目に収録。
同アルバムの3枚目のシングルとして、2000年1月にリリースされました。
『Otherside』はバンドメンバーの薬物中毒についての経験。特に、アンソニーやジョン、元メンバーのヒレルとの経験が描かれているとされています。
ですが、アンソニー自身のこちら側(この世、健全な暮らし)とあちら側(あの世、中毒症状に苦しむ暮らし)の葛藤だけではなく、【現状からの脱却】人間としての普遍的な葛藤が描かれているような気がしました。
ライブでも多く演奏され楽曲自体も魅力的ですが、今回は『Otherside』の歌詞に迫っていきます。
歌詞の解釈は人それぞれですし、本当の意味は作詞をした人しか分かりません。
もしよかったら一つの解釈として読んで頂けると嬉しいです。
『Otherside』lyric
[Chorus]
How long, how long will I slide?
Well, separate my side
I don’t, I don’t believe it’s bad
Slittin’ my throat, it’s all I ever
[Verse 1]
I heard your voice through a photograph
I thought it up it brought up the past
Once you know you can never go back
I gotta take it on the otherside
[Verse 2]
Well, centuries are what it meant to me
A cemetery where I marry the sea
A stranger thing could never change my mind
I gotta take it on the otherside
[Pre-Chorus]
Take it on the otherside
Take it on, take it on
[Chorus]
How long, how long will I slide?
A-separate my side
I don’t, I don’t believe it’s bad
A-slittin’ my throat, it’s all I ever
[Verse 3]
Pour my life into a paper cup
The ashtray’s full and I’m spillin’ my guts
She want to know am I still a slut?
I gotta take it on the otherside
[Verse 4]
A scarlet starlet and she’s in my bed
A candidate for the soul mate bled
Mmm, push the trigger and I pull the thread
I gotta take it on the otherside
[Pre-Chorus]
Take it on the otherside
Take it on, take it on
[Chorus]
How long, how long will I slide?
Separate my side
I don’t, I don’t believe it’s bad
A-slittin’ my throat, it’s all I ever
[Instrumental Break]
[Bridge]
Turn me on, take me for a hard ride
Burn me out, leave me on the otherside
I yell and tell it that it’s not my friend
I tear it down, I tear it down, and then it’s born again
[Instrumental Break]
[Chorus]
How long, how long will I slide?
Separate my side
I don’t, I don’t believe it’s bad
A-slittin’ my throat, it’s all I ever had
[Outro]
(How long?)
I don’t, I don’t believe it’s sad
A-slittin’ my throat, is all I ever
GENIUSより出典
『Otherside』歌詞の和訳
[Chorus]
いつまでいつまで 俺は滑り落ちていくのか?
大切なものを失くして
どうかな それも悪くないよ
喉を切り裂いて それがすべてさ
[Verse 1]
写真からお前の声が聞こえるよ
昔に連れ戻された気がした
一度知ってしまったら もう戻れない
向こう側で 苦しまなきゃいけない
[Verse 2]
ずっと永いこと 一緒のはずだった
墓場で俺は海に返る
運命のいたずらには 二度と動じない
俺は向こう側で 苦しまなきゃいけない
[Pre-Chorus]
向うで耐えて
耐えて やってくのさ
[Chorus]
いつまでいつまで 俺は滑り落ちていくのか?
大切なものを失くして
どうかな それも悪くないと思う
喉を切り裂いて それがすべてさ
[Verse 3]
紙コップに人生を注ぐ
満杯の灰皿 俺はすべてをぶちまけてる
俺はまだヤツ(ドラック)に頼ってるのか?
ヤツは知りたがってる
俺は向こう側で やっていかなきゃならない
[Verse 4]
スカーレットっていう小さな星が 俺のベットにいる
俺の親友だった あいつが血を流している
引き金を押して 命の糸を引く
俺は向こう側で 苦しまなきゃいけない
[Pre-Chorus]
向うで耐えて
耐えて やっていくのさ
[Chorus]
いつまでいつまで 俺は滑り落ちていくのか?
俺を失って
どうかな それも悪くないと思う
喉を切り裂いて すべて打ち明けるよ
[Instrumental Break]
[Bridge]
俺にスイッチを入れて 絶頂にさせてくれ
俺を燃やし尽くして 向う側に置き去りにしてもいい
大声で叫んでやる そいつは俺の友達なんかじゃない
引き裂いて引き裂いても そいつはまた出てくる
[Instrumental Break]
[Chorus]
いつまでいつまで 俺は滑り落ちていくのか?
自分を見失って
どうかな それも悪くないと思う
喉を切り裂いて すべて打ち明けるよ
[Outro]
どれだけ
いつになったら、この悲しみは消えるのだろう
喉を切り裂いて これが俺のすべてさ
『Otherside』に込められた二つの意味
『Otherside』は直訳すると反対側、向こう側という意味です。歌詞には、今までの彼らの苦しみや体験が語られていますが、大きく2つの意味が込められています。
- 薬物中毒からの回復を意味する「向こう側」
- 「あの世」や「死後の世界」を示唆する表現
一般的な解釈としては、薬物依存の苦しみや自殺願望を想起させる表現が含まれているので、もとメンバーのヒレル・スロヴァクとの経験も色濃く反映されていると思われます。
この2つの意味については『向こうの世界で 苦しまなきゃいけない』の部分で詳しく解説します。
Sublimeの『Pool Shark』
Sublimeというバンドの『Pool Shark』があります。
この楽曲は『Otherside』と同じく薬物中毒の苦しみを描いており、内容が類似した楽曲として紹介されることが多いようです。
ですが、2つの楽曲のはっきりと違う点が、Vo&Gtのブラッド・ノーウェルは『いつか私は戦いに負けるだろう』と言い切ってしまっている事です。
歌詞の中にこのような部分があります。
I take it away, but I want more and more
One day, I’m gonna lose the war
私はそれを奪い去るが、もっともっと欲しくなる
いつか私は戦いに負けるだろう
これはブラッドリー・ノーウェルの「遺書」ともとれる内容として広く知られています。
この歌詞には、彼の葛藤と共に「いつか私は戦いに負けるだろう」と書かれています。
その後、ノーウェルは1996年にヘロインの過剰摂取で亡くなりました。
ノーウェルは自分の中毒がいかに深刻であるかに気づいていただけでなく、それを断ち切らなければいつかは死んでしまうだろうとわかっており、常に悩みもがいていたことが感じとれます。
私が感じたのは、【言霊】になってしまったんだろうかというやるせなさでした。
※この曲には2つのバージョンがあり、1つはハードコアパンク風で、もう1つはスローなアコースティックバージョンです。
『Otherside』歌詞の深読み
『Otherside』の歌詞は、ネガティブな内容ではありますが、だからこそプラスに変える生命力=エネルギーが必要だと伝えている気がします。
それでは、歌詞に込められたアンソニーの思いを見ていきます。
『いつまで いつまで 俺は滑り落ちていくのか?」
この部分の意味は「俺はどれだけ長く薬物依存を続けるだろうか」ではなく、「俺はいつまで薬物依存を続けるだろうか」と歌われています。
この【いつまで】には薬物依存から抜け出すことが出来ないことを意味しており、薬物依存の終わり➡死を意味しているんです。
この一種の諦めに薬物依存の恐ろしさを感じます。
『どうかな それも悪くないよ』
【それも悪くないよ】の言葉で誤解しないで欲しいのですが、アンソニーは薬物中毒を肯定しているわけでは決してありません。
アンソニーは自伝『Scar Tissue』の中でこの信念を次のように付け加えている。
薬物中毒は本質的に悪いものだとは思いません。本当に暗く、重く、破壊的な体験ですが、自分の体験を普通の人の体験と交換したいですか?絶対にしません。ひどい体験でしたし、これほど辛い体験は他に知りませんが、一瞬たりとも交換したいとは思いません。私が生きているのは、あらゆる感情をありのままに受け入れるためです。わざわざそれを作り出すわけではありませんが、すべてを受け入れる方法を見つけました。 私は、何百人もの苦しんでいる人々を助ける立場にあります。
アンソニーの言いたいのは薬物依存の経験も、今の成功もすべて含めて今の自分。だからこそ多くの苦しんでいる人々を助けることができる立場でもある。
今までの人生の全ての出来事は、現在に繋がっていると言いたいのだと思います。
【人生に無駄なことは一つもないんです】
薬物は断固として反対ですが、この考え方は非常に好きです。
『喉を切り裂いて それがすべてさ』
『喉を切り裂いて』は自殺願望とも取れます。
ヒレルの薬物過剰摂取は、自分から「向こう側=死の世界」へ向かっていたともとれる量だったそうです。
これについてアンソニーは次のようにコメントを残しています。
「ヒレルには心の強さが欠けていることがわかりました。彼は中毒によって、少なくとも自分を守るための生命力を奪われていたのです。」
ヒレルは人生の苦しみに耐え続けるよりは、(過剰摂取で)自殺したほうがましだと考えていたかもしれません。
ですが『喉を切り裂いて それがすべてさ』には別の意味もあります。
これはアンソニーは自身の話でもあって、ヒレルと同じ苦しみに耐える為には、それを覆すほどの音楽と歌うことの力が必要であり、音楽が彼を動かす生命力になると伝えているのです。
【マイナスを上回るほどの生命力を】
『写真からお前の声が聞こえるよ』
写真を見ると、その写真が撮られた時代のことや、そこに写っている人々との思い出が一瞬で蘇ることがあります。
歌詞の中のお前とはヒレルの事でしょう。写真を見ることで彼との良い思い出だけではなく、依存症だった頃の辛い記憶も蘇った。
もしかすると、ヒレルのいる向こう側(依存症、または死後の世界)に呼ばれているような感覚に襲われたかもしれません。
『一度知ってしまったら もう戻れない』
薬物依存者は、たとえ依存を克服したとしても、これまで経験したこと行ったことすべてが消えることはありません。
特に世間の目や、仕事にも影響もあるでしょう。
また、肉体はもちろん内面でも、すぐネガティブなったり精神的に弱い部分など、同じ状態に戻ることは出来ないと歌っています。
そのすべての事は、まるでタトゥーのように簡単には消えないのです。
【すべてを受け入れて生きていく覚悟】
これは誰にでも当てはまることでしょう。
『向こうの世界で 苦しまなきゃいけない』
『Otherside』は直訳すると反対側、向こう側という意味とお伝えしましたが向こう側が薬物依存なのか、死語の世界なのか明確には語られていません。
つまり聴く側に回答が委ねられるわけですが、一般的な解釈は
【向こう側=薬物依存になり、戻ることのできない生活】となっています。
向こう側=薬物依存になり、戻ることのできない生活
「Otherside」を薬物依存者が、元の生活に戻ることのできない「向こう側」とした場合。
たとえ薬物依存者が薬物をやめたとしても、今までの生活がすぐに変わることはありません。
一度やめても本人の意思とは関係なく、また戻る可能性もかなり大きいでしょう。
※同じ腕にヘロインを注射し続けると感染症や切り傷につながるため、「Otherside」反対側の腕に切り替える必要があるという説もあります。
向こう側=死後の世界とした場合
「Otherside」を死後の世界とした場合、曲のタイトルが「Otherside」であって「Other Side」ではないのがポイントです。
なぜなら、「otherside」 と一語で綴ると固有名詞になります。
つまり、死後の世界を意味する単語になるからです。
私の解釈は、歌詞の内容が薬物と死の両方の意味があり、 さらに2つがいかに関係しているか伝えようとしていると感じました。
『take it on』をくり返す意味
『take it on』をマイナス的に考えると耐えるしかないと捉えてしまいますが、繰り返すことで、依存症から抜け出せるように踏ん張っている。暗闇の中で光を求めていんだと伝えているように感じます。
徐々に変わる[Chorus]の歌い方
「Otherside」には4回の[Chorus]がありますが、少しずつ音量が大きくなりスピードが速くなり、攻撃的になっていきます。
これは逃れられない運命とでも言えるような現状への、怒りや、悲しみ、、虚しさ、後悔、、悔しさなど、負の感情が渦となってアンソニーという拡声器を使って世に放たれます。
ですが、最後の『俺のすべてさ』にはすべてを受け入れる、アンソニーの強さや生命力を感じました。
『引き裂いて引き裂いても そいつはまた出てくる』
『引き裂いて引き裂いても そいつはまた出てくる』
薬物を初めて手にした時はもっと簡単にやめられると思っていた。ですが、中毒がどれほど恐ろしいかを知った時にはもう遅く、断ち切れず苦しみ続けています。
そいつ=中毒とも取れますが死や負のエネルギーへの恐怖とも私は感じました。
私自身は薬物はもちろんやったことはありませんが、将来への不安や絶望、自暴自棄から抜け出そうとしたもがいた経験はありました。
『Otherside』は薬物依存から抜け出すだけでなく、諦めてしまう自分➡強く生きる=向こう側へ行く為の曲なのかもしれません。
『それが俺のすべて』
『それが俺のすべて』
『Otherside』の結末は内省的で、薬物がすべてを奪い去り、最後には何も残らないことを指しています。
アンソニーは自分の立場(成功)や経験(薬物依存)を踏まえて、同じように苦しんでいる人たちの代弁者となっています。
『Otherside』の歌詞を深堀りしていって時、今までの人生を振り返りました。
諦めてしまったこと、人を傷つけてしまったことに対しての後悔。
それはまるでタトゥーのように魂に刻まれています。
ですが、その経験があったからの今の自分だと思い生きていきたいと思います。
反対側=Othersideに未来があると信じて。
『Otherside』のPV
『Otherside』のPVは、曲を持つ深い意味合いと視覚的な斬新さが高く評価され、MTVビデオ・ミュージック・アワードでベスト・アート・ディレクション賞にノミネートされました。
監督はジョナサン・デイトン&ヴァレリー・ファリス
レッチリの『Californication』『The Zephyr Song』『By the Way』や映画『リトル・ミス・サンシャイン』の監督さんです。
PVはモノクロで撮影されていますが、時々カラーの要素が挿入されます。
モノクロがあちら側でカラーはこちら側(現実世界)を表しています。
『カリガリ博士』(1920年)
特徴的なのは、鋭くとがった形や、いびつな車など独特な世界観となっており、薬物中毒の経験や精神状態を疑似体験するかのような映像となってます。
監督がインスピレーションを受けた作品が『カリガリ博士』(1920年)という世界で初のホラー映画とも言われている作品です。
この他にも1930 年代の未来派アーティストの作品や絵画、イラストからインスピレーションを受けたそうです。
『カリガリ博士』が気になった方は、お暇なときにご覧ください。
『Otherside』がサンプリングされた楽曲
『Otherside』はサンプリングもされ楽曲にもなっています。
2009年プロデューサー、ライアン・ルイス は、ラッパーのマックルモアと共作し『Otherside』をサンプリングした楽曲『Otherside』をリリースしました。
内容は、マックルモア自身の個人的な葛藤と、ヒップホップ界が抱える薬物乱用に関する問題を
描いているそうです。
まとめ
『Otherside』の深堀りはいかがだったでしょうか?
多くの解説記事を読むとは薬物依存やヒレルの事が描かれているとなっていますが、裏テーマとして死への恐怖や、現状からの脱却など人間としての不安が描かれているような気がしました。
『Otherside』は絶望を残して終わりますが、その反対側=Othersideには未来があると信じていたいです。
このブログでは今後も音楽(レッチリが多い)や映画の事を深堀りしていきます。
音楽や映画の新たな魅力を発見していただけると嬉しいです。
ではまた
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